北斗EMイベント:マジンシアの羊は2014年11月14日22:00~

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内容は以下↓詳細は北斗EMサイトをご覧ください

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マジンシアの羊   Posted on by Riccia

開催日時 11月14日(金) 22時
集合場所:トランメル ニューマジンシア首長オフィス前

(六分儀座標: 53o 42′S, 173o 31′E)

注意事項:
◆ 当日はチャットチャンネルHokuto EM Eventへお入りください。
◆ 円滑なイベント実施のため、皆様のご協力をお願い致します。
◆ 貴重品はお持ちにならないでください。(装備品の保険をお忘れなく!)

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商人連合ギルド統括 Lucinda Seiwell(ルシンダ・シーウェル)は、つい先ほど届いた書簡を読んでいた。
差出人はマジンシア首長Ahoahoahoahoa。長いので皆にアホア首長と呼ばれ親しまれていると聞く。

依頼は今年の長雨による天候不良でマジンシア羊全体で体調が優れず、
冬を迎える前になっても肉質の不良と毛質の劣化の回復がはかばかしくないため問題になっていると。
 ついては、それらの品質向上とついでに改良できる人物を探しているとしたためられていた。

「さて・・・あの男に働いてもらいますか。」
 そうつぶやき、Lucindaは大粒の宝石の指輪をはめた手をひらめかせて一枚の手紙を書き上げ、呼び鈴を鳴らして執事を呼んだ。
「この手紙、誰かに首長官邸へ届けさせて。ああ、失礼のないようちゃんと礼儀正しくよ?」
 初老の執事はかしこまりました、と一礼して退出していく。
 「あの男」の実力がどれほどのものか、Lucindaは人づてに聞いていたが直接は知らない。
 今回の依頼でお手並み拝見というところだろう。
「さて、どうなることかしらね?」
 楽しそうな口ぶりで独り言をささやいて金髪をかきあげる。
 鳩の血のごとき紅玉のイヤリングが指輪に触れて、ちりり、と音を立てた。

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「おっちゃん、お仕事もきゅよ~」
 フェレットが先ほど商人連合から届いた一通の手紙を、首長の補佐をする男にパタパタと振って見せた。
「ほんとに仕事なんだろうな?依頼人は…マジンシア首長?」
「はいもきゅー。アホアしちゅーから牧羊関係のお仕事ですきゅー。」
「シチューじゃない、しゅ・ちょ・う、な。」
「しちゅー!」
 Ackermannは早々に発音の矯正をあきらめた。
 商人連合の手紙に添えられていたアホアの手紙をみると、羊皮紙にマジンシアの紋章が型押しされていた。
 マジンシアの徳は謙譲。その象徴として羊飼いの杖が紋章になっている。

 手紙を読むと、男は小さく唸る。
「これは・・・俺の仕事か??毛質だの肉質だの、牧童の仕事じゃないのか。
ユーの首長かデルシアの村長にでも出したほうがよっぽどいい気がするが。」
「うーん??今年のマジンシアの夏は、例年に無い大雨と嵐で相当厳しかったみたいもきゅ。
羊もこもこだし、弱っちゃったんじゃないもきゅか?
ふぇれとも用事があって行ってきもきゅたが、General frost冷気発生装置を建ててあげたいくらい、
ひどい暑さと湿気だったもきゅ?あれがあったら今年の夏は涼しかったのかなー???」
「あれなぁ・・・装置をいくつか調べたが、あれほどの魔力だ、おそらく夏場でも冬の気候を再現したとおもうぞ??
あのまま建てっぱなしだったら、いまごろトランメル全体が雪で身動き取れなくなってるだろうな。」
「それは嫌もきゅ・・・。」
 Kellyは不満そうに口を尖らせる。
 Ackermannは机の上の手紙を前にしばらく考えていたが、ひとつうなずくと
「おいちび、ちょっと調べ物がしたいから、王室宛にブリタニア公立図書館の使用許可をもらってくれ。
畜産関係の本もあるだろうし、色々参考にしたい。」
 以前からひそかに読んでみたかった、偉大な魔術師が書いた異界の知識の本もあるだろうしな、とはあえて言わなかった。

 いいよーといったフェレットは、羊皮紙を引き出しから取り出す。
「おい、いつものように代筆するぞ?」
「だめー、ふぇれと書く!がんばる!」
 羽ペンを苦心しながら両前足で握り締め、超絶へたくそな字でBlackthorn王へ手紙を書き始める。

しんあいなる ぶらっくそんへーかへ。

 おっちゃんが としょかん みたいそです。
 よろしく おねが しもきゅ。 

               べすぱ けりぃ』

署名の最後に右前足をインク壷につっこみ、べちゃり、と足型を押した。
 「できた!」と文字からインクが垂れ落ちそうな羊皮紙をAckermannに手渡す。
「こ・・・これでいいのか?」
「もきゅ?心配なら余白におっちゃんが追記するといいもきゅ。」
 詰めて書けば今回の事情を書いて余るほどだろうが、Kellyは羊皮紙上にめいっぱい文字をのたくらせていた。
 羊皮紙一枚とて安いものではない。まして、公文書を示すVesper紋章の型押しがあればなおさら。
 Ackermannはあまりの無駄遣いにため息をついた。
 それでも余白に今回の事情を書き込み、出立の準備をした。

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王室調査官KathleenはBlackthorn城の衛兵の詰め所に呼び出されてみると、
以前Vesperで騒動を起こした男が、Vesper首長直筆の手紙を携えて待っていることに驚いた。
 王室広報官を通しての陳情の時間は終わっており、急ぎだということでKathleenの名を出したらしい。
 AckermannからVesperでの事の次第を聞き終えると、やれやれ、と頭を振った。
「・・・それで、私のところへ持ってきたと。」
「悪い、あんたくらいしか顔見知りがいないんでな。何とか都合付けてくれよ」
「マジンシア関係の仕事ということならいいわ。でも、魔術師の本ねえ・・・。
公立図書館はすべての民に開放されてるけど、一部は一般公開されていないのよね。
悪用しないって約束が出来るなら、あなたを私の協力者ということにして
魔術関係のものを含めて稀覯本(きこうぼん)の閲覧許可を出すわ。」
 稀覯本まで見ることが出来るとは、調査官とは結構な権限を持っているのだろう。
 今回の頼み事には一番最適な人物だったようだ。
「お、そいつはありがたい。もちろん約束する。色々閲覧できるなら助かる。」
「いいわ。そのかわり、そのうち私の仕事も手伝ってね?」
 Ackermannはあでやかな彼女の笑顔に微妙な違和感を覚える。
 そもそもこういう口調だっただろうかと疑問に思うが、今はあえて無視をする。

 Kathleenとともに公立図書館へ向かい、そこで一人の司書を紹介された。
「Gilbert、こちらAckermannよ。私の協力者。魔術師の本も含めて、彼が必要だという本は全部探してあげて。」
「魔術師の本・・・も、ですか。わかりました。では、どうぞこちらへ。」
 調査官は夕暮れの気配が漂う朱色の街路をひとり帰ってゆき、Ackermannはローブ姿の若い司書に伴われて
奥まった閲覧用の書見台のある場所へ案内された。
 必要な本の内容を告げると、待つよう言われる。
 しばらくするとGilbertが分厚い数冊の本を抱えて戻ってきた。
 蔵書は古くほこり臭い匂いはするが、文字や色彩の保存状態はよかった。
 重い表紙を開いて最初のページを一読し、文章の古めかしい言い回しにたじろいだ。
 おそらく、数百年前に書かれていそうな古文だらけの資料にしばらく挑むことになる。
 これは腰をすえて読まなくてはならないだろう。
 宿を連泊で取っておいて正解だったな、と思いつつ、Ackermannは読書に没頭していった。

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研究者は昼は図書館に篭り夜は宿で眠るという生活で、毎日書籍を読み漁っていた。
 さすがに目に疲れが来たのか、眼鏡を机の上に置きまぶたの上から眼球を揉んでいる。
 そこにGilbertがいつものように、目に良いという薬草茶と菓子を持ってきた。
「お疲れ様です。スコーンはKathleenさんからの差し入れですよ。」
「ん・・・ああ、ありがとう。いただこう。」
 読んでいた本に栞を挟んで閉じて、書見台から小卓へ移動する。
 新鮮な木屑の匂いがする茶は少し苦いが、しっかりと蜂蜜が垂らされその飲みにくさを補っている。
 何度飲んでも慣れない匂いには閉口するが、図書館の史書たちが愛飲しているくらいなのでいい物なのだろう。
 Ackermannはスコーンを手で割って口に放り込んで、ふと首をかしげた。
「どうしました?」
 机の脇に大量に積み上げられた本を片付けながら、司書が尋ねる。
「いや・・・美味いな、これ。」
「そうですか、僕らも時々いただくんですが、美味しいですよね。
good eatsのRiaさんに習ったそうですよ。褒めてもらえたと喜んでおられました。」
 そうか、と返事をしたが、Vesperに来るスコーンとは味が違うとはいえなかった。
 Vesperで食べたものは美味しいのは美味しいが、薄味で歯ごたえがあったのだ。
 Kathleenにあったときにでも聞いてみるか、と思い直す。

「ところで、お知りになりたいことは何かわかりましたか?」
「ああ、結構な収穫だった。魔術師の本に面白いことが書いてあってな。それを作ってみようかと思ってる。」
「そうですか、それは何よりです。どんなものでしょう?差し支えなければ教えてください。」
 机の上の菓子くずを床に払い落として、自分の覚書の羊皮紙をGilbertに差し出した。
 司書はそれを読みすすんで、目を丸くした。
「Cantabrigianの世界には面白い生き物がいるんですね。」
「だろ?羊歯から作れるらしいぞ?作るしかないだろ。」
「作っちゃうんですか・・・。」
「何の問題があるんだ。別にいいだろ。畜産に貢献だよ、貢献。」
 薬草茶をぐい、と一息に飲み干し、にやりと笑った。
「とはいえ、まだ分からんことが多いんでな。もうしばらくここに篭らせてもらう。
図書館長殿にはよろしく言ってくれ。」
 Gilbertは分かりましたと穏やかな笑顔でうなづき、いつもの口癖で本は大事に扱ってくださいねと言い残して去っていった。
 Ackermannは再び書見台について読みかけの本を引き寄せ、再び読書に没頭した。

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さらに4日ほどかけて図書館の蔵書を読み、欲しかった知識を調べ終えた男は司書と図書館長に礼を言って去った。
 Blackthorn城に登城して、城門の番兵にKathleenへの伝言を頼もうとすると、そのまま城内の一室に案内された。
 調査に出かけるときは淡い金属色の装備を身に付けているKathleenだが、
今日はデスクワークのみ勤めるためか髪を後ろに束ね、薄緑のシャツにロングスカート姿だった。
 ブラックソン王城の一室で各都市で起きた事件の調査報告を書いていたらしい。
 ベスパーでの森の異変の件も、Kathleenが担当し報告していたはずだ。
 調査官はペン立てに羽ペンを刺し、羊皮紙に良い香りのする滲み止めの粉をさらりと振ってから向き直る。
「知りたいことは分かったかしら?」
「助かった。色々面白いことがわかったから、Vesperに戻って研究するつもりだ。」
「そう、それはよかったわ。マジンシアの件、上手くいくといいわね。」
「あぁ・・・。」
 Kathleenは机にひじを突いて指を組み、その上にあごを乗せる。
 繊細なつくりの手だが、日々の剣術訓練の成果か見るからに頑丈そうだった。
 上目遣いに何か期待するように楽しげな顔で自分を見つめる様子に、男は居心地の悪さを感じる。
「なんだよ?」
「え、なにかしら?」
「言いたいことがあればさっさと言えよ。なけりゃ、もう帰る。」
「せっかちねぇ。せっかく差し入れしたんだから、スコーンの感想くらい言って欲しいわね。」

 わざわざ執務室まで呼ばれてたからには、もっと後ろ暗い依頼でも来るのかと構えていたが拍子抜けした。
 小さくため息をついた男は、額を押さえた。
「美 味 し か っ た で す!・・・これでいいか?」
「なによ、せっかく毎回甘さとか香りとか工夫してるのに、もうちょっと何か言いなさい?」
「・・・作ってくれなんて、頼んでないからな?」
 Kathleenは子供のように頬を膨らまして「わー…かわいくない」とぼそりとつぶやく。
 10歳以上年の離れている男に対して、その台詞は無いとおもうが。

 大げさにため息をついたAckermannは、少し考えるそぶりをして図書館で感じた疑問を口にした。
「じゃあ聞くが、Vesperで食べたのと図書館の差し入れの味が微妙に違ったのはなんでだ??
固いし、Vesperに届く間に質が落ちてるんじゃねえのか?」
 その言葉に女調査官は目を丸くして口元に手を当てた。
「あなた、Vesper首長宛に送ったお菓子食べたの?」
「なんだよ、数があったからおこぼれに預かっただけだ。問題ないだろ?」
「あれは動物用に甘みを控えてつくったものよ?固さだって獣医に相談したら、そう作れって言われたから。
・・・感想ありがとう。もういいわ、お行きなさい。」

 あまりに意外すぎる答えで男はあっけに取られた。
 どうやら動物用の菓子を食べてしまっていたらしかった。
 とはいえ、体に異常が出たことはないので特に問題は無いのだろう。
 黙って一礼して退室したが、Ackermannは見てしまった。
 顔を真っ赤にして必死に笑いをこらえている調査官殿を。
 男は今度からあんたから来たものは食わねえよ!と胸のうちで毒づいた。 

・・・・・

Vesperに戻った研究者は、昼は首長の補佐、それが終わればVesper銀行前に建つ錬金術師の店に通い始めた。
 手紙を書いては怪しいものをブリタニアの各地から取り寄せ、調合する毎日。
 その支払いの請求書の山に、Vesper首長が目を回したのは当然の結果か。

「おっちゃん・・・Vesperの財政は危険が危ないですきゅ!
ひつよーけーひもほどほどにしてくださいもきゅ!」
 Ackermannの膝の上でインクに染まった右前足を決裁書に押しながら、フェレットが抗議する。
 机の上にまだ数通請求書が残っている。
「そういうなって。投資だよ投資。大もうけするには先立つものが必要なんだよ。」
「とーしとはー、確実に収入が見込めるか、余ってるお金でやるものですきゅ!
べすぱに居候しなきゃ食費も怪しいおっちゃんがやることじゃないですきゅ!」
 くわー!と怒り気味になりながらも、精度の良い錬金道具や高価な材料がAckermannの実験に
必要な経費だとは理解しているようで、書類に次々と右前足型を押していく。

「これでひよーたいこーかが良くなかったら、おっちゃんをVesper港湾の荷揚げ作業に従事させるもきゅよ!」
 ひよーたいこーか―――費用対効果、か、と脳内変換をする。
「おーこえぇな!体力無いから役にたたんと思うけどな!」
 はっはっは、と笑うが、このフェレットならやりかねなかった。滅多なことはいえたものではない。

 最後の請求書の一枚にとりかかって、首長は首をかしげた。
「なんだよ、別に不正請求とかしてないからな?」
 思わず言い訳してみたが、別のことが気に掛かったらしい。
 やや黄色がかった台形の紙をおもむろにくんくんと匂い始める。
「・・・これ羊の皮のにおいじゃないもきゅ。」
「誰の請求書だ?――む・・・。」
 請求内容はDaemon Blood6万個。
 古くから付き合いのあるUmbraの死霊術師からだった。
 反射的に舌打ちする。
「あいつめ、またやりやがったか。これを普通に使うなといっておいたのに。」
「ぅー…この匂い、嗅いだおぼえがあるけどなんだろー・・・。」
「あー、思い出さんほうがいいぞ。」
 フェレットは鼻をひくひく動かしていたが、何か思い当たったのか鼻面にしわを寄せてわずかに口を開ける。
「・・・人間?」
 Ackermannもげんなりした顔でうなづく。
「そうだ。この請求書の主が手っ取り早く手に入れられる生き物の皮を再利用してるんだとさ。
どうせ街道沿いにたむろしてる山賊のたぐいから調達したんだろうな。
胸糞悪い話だが、死霊術師とっちゃ当たり前の材料らしいぞ?」
 首長はぉぇー、と舌を出してアンクの魔よけのしぐさをする。
 お前フェレットだろうに、という突っ込みはあえていれない。
「まぁ・・・決済はしてくれよな?」
「きゅーぅ・・・。」
 人皮紙をてしてしと押しやり、気が進まなそうにフェレットはねちょり、と
最後の決裁書の署名欄に足型を押し、仕事を終えた。

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 1ヵ月後、羊毛増産に関するものがようやく完成したという連絡を受けて、
マジンシア首長と秘書Kait、そして羊飼いの代表でBrendaという娘が呼び出されて首長官邸で客人を待っていた。
  昨日マジンシアに到着していたAckermannは、大きな植木鉢を抱えて官邸に入ってきた。
「待たせたな、こいつが意外と重くて苦労した。」
 その植木鉢に植えられた植物は羊歯(シダ)のような葉を持ち、ふさふさとしていた。
 普通の羊歯と違うところは、真ん中から一本だけ茎が立ち上がっているところか。
「偉大なる魔術師が異世界から持ってきたされる本に書いてあったものを再現してみた。
こいつはPlanta Tartarica Barometz (プランタ・タルタリカ・バロメッツ)という。」
 マジンシアの3人は口々に感嘆の声を漏らす。
「それで、これがマジンシアの羊にどのような影響をもたらすので?」
「まぁまずは見てくれ、画期的だぞ。」
 そういうとAckermannは官邸の外の道に出て、小脇に抱えた植木鉢を地面に置いた。
 持ってきた鍬で空き地を耕し、水を加えて土をやわらかくし穴を開ける。
 植物の茎を折らないように用心しながら植木鉢をひっくり返して、開けた穴にその植物を植えた。
 ブリキ缶の水差しの水に怪しい蛍光緑色の薬を混ぜ、丁寧にかぶせた土の上に水をやる。

 そのまま待っていること5分。
 水と液肥を吸い上げた植物の枝先に新芽が芽吹き、瞬きをする間に蕾がついた。
 それは柔らかな淡い黄色の花を咲かせ、すぐに花弁が散り落ちる。
 花托にはぽっちりとした緑色の子房がのこり、皆が見ている前で緑色の球体は豆粒大からこぶし大に、
それをあっという間に通り越して魔女の大鍋ほどの大きさに生長した。
 実には4本の切れ目が入っており、限界まで膨らんだと思われたとき、ぱちりと小さな音を立てて切れ目はほころびた。
 中からモコモコとした白い塊がはぜるように噴き、やがて茶色の枝が下に4本突き出す。
 それは二つに割れた小さな蹄を持ち、うごめいていた。
 濡れた黒い鼻先が持ち上がり、閉じていた二つの耳がひょこりと立ち上がる。
 そして横長の瞳孔を持つ目が開くと、「んめぇええええええ!」と大きな声で鳴いた。

「俺の研究成果だ・・・すごいだろ?」
 あまり自慢げに聞こえないことが気になるが、Kaitは素直に褒めて見せた。
「とても画期的ですね。羊毛の質や量はどうなんでしょう?」
「そこなんだよなぁ・・・まぁ、見てろ」
 見ている間にも植物羊は見る見る大きくなり、重みにしなって茎が地面に垂れた。
 めぇめぇと鳴きながら、道端に生えている雑草を茎が届く限りの範囲ですさまじい勢いで食い尽くし始める。
 通常の羊と変わらない大きさまで成長したところで、突然茎がぽきりと折れ「ぶめぇ!」と断末魔の声を上げて死んだ。

「こいつらはこうやって周りの餌を食い尽くしたら死ぬんだ。」
「は、はぁ・・・。」
 無感情なAckermannの説明に、すべてが予想外すぎた三人ははただ脱力した返事をするしかなかった。
 あっというまに頭や足は地面に溶けて、やがて目の前には植物羊の白い毛だけが残った。
「毛刈りをする手間が要らないのがいいですよね・・・。」
 なんとか感想を漏らしはしたが、いかれた研究者は渋い顔のまま「その毛を触ってみるといい」と言った。
 おそるおそる触れると、油っぽさも無くやわらかいが、これは羊毛の感触ではなかった。
 一つまみとって引き伸ばしてみると、短い毛に黒い種がくっついてきた。

「こ、これは・・・綿?」
 確認するようにAckermannを見ると、男はうなづいた。
「そうだ。こいつらただの綿なんだよ。繊維も短いし、種を取り除かなきゃならん。
綿なら植物羊を作るような馬鹿馬鹿しい手間はいらん。」
 あからさまに落胆する三人だったが、研究者はにやりと笑う。
「まぁ、そんなにがっかりするなよ。ちゃんと次の手は打ってあるんだ。」
 白衣のポケットから先ほど植物羊に与えた蛍光緑の薬瓶を取り出して振って見せた。
「この肥料の成分を少し変えると、普通のに動物の栄養剤になった。
うちの首長にこっそり混ぜて飲ませたら、なかなかのふさふさ感になってな。いい毛並みだぞ?
だから、薄めて羊の飲み水として毎日飲ませれば収量も上がるだろうし、毛質も肉質もかなりよくなる・・・はずだ。」
 なんともその物言いに不安は大きかったが、先ほど見せられた怪しい研究成果は本物である。

 アホアは決断した。
「結構。何事も挑戦じゃて。その栄養剤を買い取らせていただきますじゃ。
 今回の研究費用として、商人ギルドとの約束どおり50Mお出ししよう。
もしちゃんとした成果が出たら、定期的に納入してもらおうかの。」
「マジンシアの首長様は話が分かるな。どこぞの首長にもその余裕を分けてもらいたいもんだ…。
 今日のところは手持ちの材料の都合で栄養剤一樽しか作れなかったんでな。
これから材料取りをちょっと手伝ってもらえるなら、少々お安く納入しよう。」
「ならば冒険者に手伝ってもらえばいいですな。場所が分かるならこのまま行きましょうぞ。」
「いいだろう、じゃあ俺が現地のゲートを開く。よろしくな。」
 Brendaは羊の世話があるので残るといい、皆でぞろぞろと出立した。
Ackermannの読み上げた材料のリストは膨大だったが、そのうち採取の難易度の高いものだけを探すことになった。

ということで、材料集めの協力依頼がニューマジンシア首長オフィスより来ております!
お時間のある方は是非お手伝い願います。
以上 Riccioからのお知らせでした。

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