ミリョクの旅立ち
王室広報官のRiccioです。
今回はアンブラの参事会からの依頼です。
近郊でミノタウロスが砦のような物を築ており、その調査および討伐をお願いしたいとのことです。
ミノタウロスは砦を築くような知能は持っていないため、黒幕がいる可能性も考えられます。
何が起こるか分からないため、しっかりとした装備でお越しください。
開催日時:2025年3月20日(木)22:30~
集合場所:Britain広場
注意事項:
予期せぬ出来事が発生するかも知れません!貴重品はなるべく持ち込まないよう、お願いします。
以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
– イベント進行の妨害、かく乱行為。
– EM、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
皆さんのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!
プロローグ
「父よ!ミリョクは冒険者になって旅をしたい!」
「急にどうしたのだミリョク。変なモノでも食べたか?何が不満なんだ。何でも買い与えてるじゃないか!」
ここはダンジョンDOOM・秘密の第3層と呼ばれる、いわゆる「中の人」の居住スペースである。
その奥にある「内裏」と呼ばれる御殿で、ミワク姫の娘ミリョクが父・お内裏様と向かい合っていた。
DOOMは知性ある魔者(まもの)・ダークファーザーが統治する国。正式な国ではないが、ブリテイン側も黙認しており、敵対関係にはない。
だが、人間の冒険者が侵入すれば、即座にモンスターに襲われるという危険な場所でもあった。
「あるじ様よ、落ち着くのじゃ。ミリョクはもう成人しておる。子供ではないのじゃ」
お内裏様の困惑した表情を見かね、母のミワク姫が口を挟む。
「さすが母さま!分かってる!」
ミリョクは目を輝かせて母を見る。
ミワク姫はダークファーザーの娘であり、つまりミリョクにとっては祖父がDOOMの統治者にあたる。
一方、父であるお内裏様は、トクノを統治する亜人の大名の血を引く者。継承権は第3位と高く、DOOMとトクノの架け橋のような存在でもあった。
「それで、ミリョクよ。なぜ冒険者になりたいのじゃ?」
ミワク姫の問いに、ミリョクは誇らしげに胸を張る。
「先日、ブリテイン首長の著書《世界の秘密》を読んで、旅にでたくなったの! ミリョクも外の世界を知り、見聞を広げたい!」
お内裏様は怒りの形相で天井を見上げてから、ミリョクを見る。
「あの首長めぇ~、余計なものを出版しおって! ならぬぞミリョク! 外の世界は危険で満ち溢れておるぞ!」
DOOMの民は「知性を持つ者」と「持たざる者」に分かれ、後者はいわゆるモンスターの類で、人間を見れば襲いかかる。
その活動範囲はダンジョン内およびその周辺に限られる。
しかし、DOOMの運営には物資も必要なため、前者はアンブラやルナまで調達に出る者もいる。
そこからもたらされる情報を含めると、ミリョクが知っている世界というのは、マラスの半分程度ということになる。
《世界の秘密》は、彼女にとって外の世界への憧れは強めるきっかけになったのだ。
「父よ! 私はもう子供じゃない。世界を自分の目で見て体感したいの!ブリテインの首長のように!」
「首長め……。そうだ、父も同行しよう。それなら許すぞ」
お内裏様の提案に、ミリョクは「それだけは絶対にイヤ!」と言わんばかりにしらけ
顔を浮かべてから口を開く。
「そんなの嫌!ミリョクはひとりで冒険がしたいの!」
「なるほどの。確かに旅にさせるには、ひとりがよかろう」
ミワクが娘の意見に賛同すると、お内裏様はやや困った表情を浮かべる。
「だが、父としては心配なのだ……。よし、護衛用にオートマターを持たせよう」
「オートマター?」
ミリョクの頭に?が並ぶ。
お内裏様によると、それは魔力コアで動く自律式の自動人形であり、最新の魔術テク
ノロジーによって活動できるという。
「ミリョクよ、あるじ様が心配するのは親として当然じゃ。オートマターを連れ歩くのが妥協点ではないかのぉ」
ややあって、ミリョクはお内裏様に視線を向ける。
「……まぁ、仕方ないか。それで、そのオートマターはどこにあるの?」
「今から手に入れる。どうやら、人形を集めているオッサンが持っているらしいから、譲ってもらうつもりだ」
「えっ、今から!? そんな適当な感じで決めちゃうの!?」
ミリョクの表情が一瞬固まる。
どうやらオートマターや魔力コアの入手には時間がかかるらしく、ミリョクが旅立つ
のは、それからしばらく後となった。
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「父!母さま!じーちゃん!ミリョクは旅立ちます!たまには帰ってくるからね!」
DOOMの入口にはミリョクの家族の姿があった。
「何かあったら、すぐに戻ってくるのだぞ!オートマターも持って行くんだぞ!」
心配そうに言うお内裏様。
ふと、何かを思い出したかのようにミワクが口を開く。
「アンブラを通るときは、ロマンス王子に気をつけるのじゃ。やつは何を企んでいるかわからんからのぉ」
ロマンス王子――
彼はかつて、ミワク姫に無理やり結婚を迫ったが、見事に振られた過去がある。それ以来、DOOMに対して陰湿な嫌がらせを続けている。
当然、その娘であるミリョクにも何かしらの干渉をしてくる可能性は高い。ミワクはミリョクを優しく見つめながら、もうひとつ大切なことを伝え
た。
「それとミリョクは、あるじ様の血が濃いせいか見た目は人間に近いが、力は我々と同等じゃ。使い方には気をつけるのじゃぞ」
「うん、わかった!」
手を振りながら、ミリョクはまずアンブラを目指した。
冒険者として正式に登録するためである。
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人の街であるアンブラに入るためには、”人間の姿”に変身する必要がある。
これはアンブラを支配しているロマンス王子との取り決めであり、万が一モンスターの姿で訪れた場合、ガードに襲われてもアンブラ側には責任が
ないというルールだった。
幸い、ミリョクは普段から人間の姿をしているので問題はない。
街に入ると、真っ先に冒険者ギルドへと向かう。ギルドは街の中心部にあり、銀行に内に併設されている。
「こんにちは、冒険者登録をお願いしたいのだけど・・・」
ミリョクは軽く会釈をしてから受付嬢に用件を伝えた。
彼女はミリョクを見ると、一瞬驚いた表情を浮かべた後、深く頭を下げる。
「これはこれは、ミリョク様!ようこそお越しくださいました」
どうやら彼女はミリョクのことを知っていたらしい。
「私はエミリアと申します。ミリョク様の登録を担当させていただきます。どうぞ、こちらへ」
案内されたのは、受付カウンターの隣にある登録ブース。
「必要事項を記入した後、力量を測定しますので、この水晶に手をかざしてください」
ミリョクは名前・住所・生年月日に加え、得意な戦闘スタイルを記載し、水晶に手を
置いた。
その瞬間――
水晶が淡く輝き始め、やがて緑色に変化する。
「やはりDOOMの方はすごいですね。ミリョク様は《Verite級》です!」
エミリアは一瞬驚いたが、ミリョクの出自を考えれば納得の結果であった。
なお、冒険者のランクは以下の8つに分かれている。
Dullcopper(ビギナー)
Shadow
Copper
Bronze
Gold
Agapite
Verite(上位クラス)
Valorite(最上級、世界に8人のみ)
ミリョクは《Verite級》、上から2番目のランクに認定された。
「ミリョク様、お疲れ様でした! これで登録完了です」
「ありがとう。ところで、何か私にぴったりな依頼はない?」
エミリアはファイルから一枚の依頼書を取り出し、テーブルに置く。
「本来、ミリョク様の等級ならAランクの依頼が妥当ですが、本日が初めてですので、Bランクの依頼を選んでみました」
「ありがとう」
依頼の難易度はE~Aの5段階で、最も難しいのはAとなる。
ミリョクは依頼書に目を通す。
依頼:アンブラ近郊の異変
依頼内容
「アンブラ近郊でミノタウロスの目撃情報が多数あり、Labyrinth(ラビリンス)の異変を調査せよ」
特記事項
・戦闘が発生した場合、可能な範囲で討伐すること
・討伐数に応じてボーナス加算
ミリョクは眉をひそめた。
「……エミリアさん、アンブラ近郊にミノタウロスって出現しないよね?」
「そのはずなのです。しかし、一週間ほど前から目撃情報が相次いでいるのです。さらに、Labyrinthに不穏な動きがあるとの報告も入っています」 Labyrinthは、DOOMと同じく魔者(まもの)が統治するダンジョン。
しかし、DOOMと違い、ほぼ全ての魔者が人間を見れば襲い掛かるため、対話は不可能に近い。故に、人間との交流はほぼ皆無である。
長の名はメラクタス。
彼だけはダークファーザーと意思疎通ができる。ダンジョンの外まで出て来るような凶暴さはないと、以前に祖父に聞いたことがあった。
「……なるほど、Labyrinthの異変。これは面白そうね」
ミリョクは小さく笑いながら、依頼書にサインをした。
こうして、ミリョクの冒険が幕を開ける!
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ミリョクは装備を既に整えていたので、そのまま調査へ向かうことにした。
「ミリョク様、単独調査ですので気をつけていってらっしゃいませ」
エミリアが心配そうに見送る。
「ありがとう、エミリア」
アンブラを出たミリョクは、街道をルナ方面へ進む。
街の周辺は、冒険者の家や商店が並ぶが、それを過ぎると視界が開け、広大な草原が
広がっていた。
さらに進むと、右手には枯れかけの木々が見えてくる。
(……死の森の影響ね)
この一帯は、奥に広がる「死の森」の瘴気の影響を受け、少しずつ大地が蝕まれている。木々は、瘴気の影響で紅葉しているか枯れかけているもの
が多い。
(この辺りが目撃情報のあったエリアね。思ったよりアンブラに近いわね)
警戒を強めながら森の奥へ進むと、依頼書に記載されていたミノタウロスの影が見えた。
エミリアの話では、最初にミノタウロスの目撃報告が入ったときは単体だった。しかし、日を追うごとに数が増え、最近では資材を運ぶ様子まで確
認されているという。
DOOMでも冒険者がいない時は設備の補修などで、こっそり資材を運ぶことはある。
だが、彼らは白昼堂々と作業をしていたらしい。
ミリョクは《ハイディング》《ステルス》のスキルを使い、慎重に接近した。
すると、数体のミノタウロスが目の前で石材を運んでいるのが見える。
(やっぱり……何かを築いている!)
彼らはツルハシを器用に扱い、地面に溝を掘り、丸太の杭を打ち込んでいた。
さらに、その上に橙色の石材を積み上げている。
全体像はまだ不明だが、どうやら一定の広さを囲むように建設しているようだ。
(囲んでる? まさか……砦!?)
よく見ると、地面には扉のようなものも置かれている。ミノタウロスに砦を築く知識
なんてないはず……。しかし、目の前の光景はそれを否定していた。
ミリョクは驚きのあまり、無意識のうちにハイドを解除してしまった。
(……しまった!)
気づいた時には、周囲にいたミノタウロスのうち、3体がミリョクをターゲットしていた。
(囲まれてる……!)
ミリョクはDOOMで戦いの術を学んでいるが、得意なのは近接戦であった。素早くクリスを抜き、必要な騎士魔法を発動。
エフェクトが現れると同時にスペシャルムーブ発動。
《アーマーイグノア》!
超人的な速度でミノタウロスに肉薄した属性無視の刃が、彼らの足を容赦なく切り裂く。
「ブォーーー」
怒りの咆哮を上げるミノタウロス。しかし、ミリョクは臆せずさらに二撃、三撃と繰り出し、奴のバランスを崩す。
その隙に、2体目、3体目の足にも攻撃を加え、動きを鈍らせた。
(チャンス!)
ミリョクは武器をDOOM産のウォーハンマーにスイッチ、一気に距離を詰めた。
そして――、再びスペシャルムーブ。
《ワールウィンドアタック》!
旋風のごとく回転し、凄まじい連撃をミノタウロスに叩き込む。次の瞬間、3体は崩れ落ち物言わぬ骸となった。
「よっしゃーー!!!」
思わずガッツポーズをするミリョク。やはり故郷の武器は相性がよく使いやすい。
しかし――
(しまった……マナが切れてる!?)
ワールウィンドアタックを連続使用したせいで、魔力がほぼ空になっていた。このまま長く戦えば、危険な状況に陥る。
(ここは切り上げて、ギルドに報告しにいくか…)
冷静に考えた結果、調査を切り上げることにした。報告する内容は十分なものであった。
翌日、アンブラの参事会は王室広報室を通じて冒険者へ本格的な討伐を依頼することを決定する。
隊長はミリョクの予定であるが、本人が知るのは数日先であった。
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