BNN – 覚醒 – 第五章 第二節

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BNN – 覚醒 – 第五章 第二節      投稿日:2012年6月26日

砂岩の壁に囲まれた街にデュプレ(Dupre)は近づいていたが、彼の鈍く輝くプレートメイルは、あちこち傷つき、へこんでいた。下劣な機械獣からの攻撃を受けたために、鎧を構成する金属板が多数取れてしまっていた。邪悪なエクソダス(Exodus)を排除する最終決戦では、あまりにも多くのヒューマン、エルフ、ガーゴイルの命が奪われた……。献身は徳の一つであるが、その徳が今回ほど発揮されなければどうなっていたであろうか。なぜ献身はいつも彼を選ぶことなく、彼より若く、俊敏で、力強い者たちを選ぶのだろう? 彼らは様々な形で彼の盾となり、自分たちを犠牲にしてデュプレの存在を維持したのかもしれない。もしかすると、ミナックス(Minax)を倒すという彼の名誉の誓約は、献身と切っても切れない関係にあるのかもしれない。名誉の街の門をくぐりながらデュプレは頭を振ったが、自信のなさを振り払うことはできなかった。ムーンゲートで起きた出来事は、彼の意志をより揺さぶることしかしなかった。すぐにフェルッカに戻ってミナックスを追おうと彼は考えていた。しかし、ムーンゲートの損壊は、現在もテルマーのガーゴイルに蔓延する伝染病のようなものによって引き起こされたのではないだろうか? そうだとすれば、残るギルフォーン(Gilforn)のゲート、あるいは国中の数多くの魔法たちが生み出す一時的ゲートにまでそれが伝染しないだろうか? 獣でも、怪物でも、人間でも、この剣と盾で戦える相手であればかかってくるがいい、オレはそいつらを震え上がらせてやる。だが……、剣で戦える相手でないなら、オレにはどうしようもない。これらの考えを脇に押しやり、デュプレは防具職人の店に大股に歩いて入っていった。大きく重い盾を手渡された職人は、ただ無言で首を振るだけだった。この盾もまた、デュプレの命を永らえさせるために、自らの命を犠牲にしたのである。発見した日誌の写本に目を通し……、かつて彼の主君に頻繁に会いに来た男に対し、誤った考えを抱いていなければどうなっていただろうかとデュプレは思いめぐらせるのだった。

「そうだ。ヘクルス(Heckles)。私がやらなければいけないということはわかっているだろう。お前を信頼し、城をお前に託す。私の帰還に備えておけ」

「では、帰還は可能だとお考えなのですね。閣下」

ブラックソン(Blackthorn)が答えるまでに少し時間がかかった。なぜなら、彼の長年の道化師でありコンパニオンである者から投げかけられたこの単純で率直な質問に対し、どのように答えてよいものか確信できなかったからだ。ムーンストーン、ブラックロック、その他の秘薬を入れた袋を肩にかけながら、ようやく彼は声を発した。

「必要なことを済ませた時がその時だ。ヘクルス、ここでもう一度会えることを願っている。それと……」

「なんでしょう?」

ブラックソンは道化師に向かって一本のカギを投げ渡した。道化師はまるで永遠の楽園に通じる門のカギを受け取ったかのように、大事そうに手に抱いた。

「私の留守中にワインセラーを空にするなよ」

このときばかりは、道化師は気のきいた答えをできなかった……。主君が彼に背を向け、クロークを翻しながらドアをあけて立ち去ってからも、ヘクルスは事態の深刻さをひしひしと感じていた。ワインセラーのカギをヘクルスに渡すなど、今までなら絶対にありえないことだったのだから……。

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暴徒は未だにはびこり、ヴァーローレグは崩壊してしまったにも関わらず、トリンシックにはお祭り気分が漂っていた。エクソダスの敗北により、皆がまるで闇の旅路が終わりを告げたような気分に浸っていた。自分の想いとは裏腹に、デュプレはどんちゃん騒ぎと栄光に酔いしれるひと時を彼らに過ごさせてやった。今夜は勝利の、活気に満ちた、大切な夜だった……。しかし、それは彼らの問題の終わりを告げるものではなかった。民衆は未だに貴族たちに反旗を翻し、ヴァーローレグのガーゴイルたちは安住できる場を持てていない。ミナックスと手下たちは自由を謳歌しているし、テルマーのガーゴイルたちは謎の病に苦しんでいる。そしてジュカとミーアたちはイルシェナーの破壊によって数多くの仲間を失っていた。

デュプレはグラスを手にし、一気に飲み干した。なぜそんなに酒が好きなのかと人々はよくデュプレに質問する。

最近のデュプレは、この問いに質問で返すことにしている。「なぜ他の皆は酒にふけらずにいられるんだ?」と。

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ダンジョンに巣くうものどもに、嫌悪の情が湧いた。こいつらのねじれた魔法の嘲笑は、全ての魔法使いに対する侮辱だった。だが同時に、この者どもが利用する力に対し魅惑も感じた。

クロークをまとった人影から放たれたエナジーボルトは怪物の機械機構に食い込み、続く三発の強力なライトニングボルトがこの最深部内で雷鳴のように反響し、そして再び全てが静寂に包まれた。今回は嫌悪が誘惑に打ち勝ったのだ。袋を開き、彼はブラックロックの欠片をもうひとつ取り出すと、もうひとつの奇妙な装置の前にそれを置いた。この装置の機能は判らなかったし、そんなことはどうでもよかった。重要そうでエネルギーを集めていることだけがわかればよかったのだ。

彼がここにいるのは、エクソダスがこれらにアクセスできないようにするためだった。

彼の場所から後ろに紐が伸びていた。撚り糸に硫黄の灰(sulfurous ash)を練りこませたものだ。紐を配置し、メインの部屋と思われる場所に引き、残っていた僅かなブラックロックを最も大きな機械の前に置いた。詠唱と幾つかの仕草を行うとすぐに袋の中の秘薬が焼ける匂いがし、魔法エネルギーが硫黄の灰入りの縄を伝っていくのが感じられた……。同時に、ブラックロックがエネルギーを吸い寄せ増幅しているのを感じた。一発目の爆発であの巨大な機械が揺れるのが見えて満足し、すぐにその場を離れようとしたが……、以前にも感じたあの眩暈が突然襲ってきた。

エクソダスによる強制召喚だ。

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夜も更け、デュプレは何軒も酒場をはしごしては存分に好みの酒を呑んだが、それでも彼は満たされなかった。今のように、勝利の中にあってさえ負けた気分になる、そんな時に彼は名誉への貢献やそういったものの中に逃げ場を求めるのだ。名誉に対して忠実である限り、道を見失わずにすむ。

バラバラに引き裂かれようとしていくブリタニアを救うことが彼には叶わないとしても。

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「つまらぬウォーロックめ、私を侮辱したな。私に従うのではなく、邪魔だてするのか。それがお前の考える誠実の徳というものか?」

この不快な存在が発する恐ろしい声に憤激したブラックソンは、辛うじて唇にうすら笑いを浮かべて答えたが、それが相手から見えているのかどうかはわからなかった。「高徳なポーンが欲しかったのだとしたら、残念ながらお前は間違った駒を盤面から選んだと見える」

まとわりつくような、冷たく、歓喜のかけらもない笑いが聞こえてきた。その笑い声はまるで周囲のあらゆる場所から聞こえてくるようだった。「お前は勝ったと思っているのだな? この虫けらめが。私を見くびるなよ。お前のせいで私も少し困ったことになるかもしれんが……、だが、本当に困ったことになるのは誰かな?」

暗闇の中から巨大な生命体が眼前に現れたことに驚愕し、ブラックソンは反論できなかった。この生命体の全貌を見ようとして彼は首を後ろにひいた。こんな敵が相手では対抗手段など何もなく、挑むことすらかなわないだろうとブラックソンは思った。

だがそれは一瞬にすぎない。

素早く後ろに飛びのいたブラックソンは、袋の隠しポケットに手を入れ、使う局面が来ないことを願っていた大きくて奇妙な石を取り出した。この微かに光る黒い球、ギルフォーン自慢の“合成ムーンストーン”がブラックソンの手のひらの上で揺れ始め、機械モンスターの射程外に身を置くよう努めながらブラックソンは自身の魔法エネルギーを前方に注いだ。彼のマナは身体中から堰を切ったかのように熱く燃え上がり、ブラックソンは、エクソダスとの間合いを保つことはできるはずだと自分に言い聞かせ続けた。

だが不幸なことに、目にもとまらぬほどの速さで強力な一撃が彼を襲い、彼の考えは事実ではないことを暴き、現実を突き付けた。部屋の向こう側まで吹き飛ばされたブラックソンは輝くオーブを取り落とさずにいるのが精いっぱいだった。身体が壁に、そして続いて床に打ちつけられ、視界はかすんで赤く染まっていった。激しく咳き込み、口から血があふれる。内蔵がやられたようだ……。しかし、だじろぐことはできない。彼はロード・ブラックソンなのだ。彼のような者は、決してこのような下劣な生物の子供に斃されることはないのだ。

エクソダスはゆっくりと近づいてきた。絶望の表情を浮かべるヒューマンの顔がそこにあると思いながら……。しかし、目にしたものは、血塗られた唇に微笑を浮かべるブラックソンの顔であった。そして突然深紅と空色が混ざり合った輝くエネルギーのポータルが出現したかと思うと、ブラックソンとエクソダスらしき者を飲み込んだ。

「撤退だ、我が手先たちよ。私の力の源となる機構へ多大なダメージを受けた……。そして私の現在地も不明だ。しかし、お前たちにも判るとおり、そんなことは領域内全てに及ぶ我が交信能力に影響しない」

もちろんエクソダスの手先からの反応はなかった……。人間の感覚で感知できるようなものは何も。

「このウォーロックは裏表のある奴であったか……。だが、いろいろと利用できそうだ。好むと好まざるとにかかわらず……、奴は今となっては囚われの観衆にすぎん。たとえ我ら両者がここに閉じ込められようとも、奴はまだ使える……」エクソダスは笑い声をあげ、このいずことも知れぬ場所に飛ばされた部屋に心をかき乱す騒音が響き渡った。

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