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BNN – ソーサリアは眠る 投稿日:2010年7月21日
ソーサリアは眠りの時を迎えていた。夜空の長いまつげが、満ちていく月の光に照らされた大地を覆う。
多くの人にとり、影とは災いの場所である。影は潜み隠れる場所である。そして、影は冷酷、孤立を暗示する。
しかし、また同時に、影は一部の者にとって、絶好の機会の場所なのである。
ケロムの夢
ケロム(Kerom)は“理想の戦士たち”のありふれた一員に過ぎなかった。
彼の瞼が夢の侵入を許したとき、肩の上の辺りで影が蠢いた。影。特異な一面の暗黒が彼を邪悪な喜びに包み込んでいる。この一族は闇から闇へと渡り、殺戮者たちの姿を隠してやることで死を生み出させていた。選民(chosen)の活動--沐浴するヘビたちの静寂を切りさき、彼らの存在に気づき遅れた犠牲者たちのしなやかな首に、二度と力を入れさせないこと。
そしてついに、かぐわしき勝利が彼らの手中におさまった。眠りにおちてなお理想の戦士たちのありふれた一員であるケロムは……微笑んだ。
眠りの中にあってさえ、彼の思考は働いていた。象徴主義などくそくらえだ。もちろん隠すことなどなにもない。全ては白昼の光の下で、そう、輝く太陽の光のもとで成されることだろう。選民一人ひとりが己の役目を果たすが如く、木漏れ日に染まる朝は人々に挨拶をおくるのだ。そして伝えられ、広がっていく言葉。「皆のために前進を!」癒されていく王国。「我らに続け!」そして生きとし生けるもの全てが希望の前にひれ伏す。「さあ、共に再生されよう!」
眠りながら喜びに包まれていたケロムだが、一部の人々がこの夢のためにどれほど混乱させられるのかということに思い至る。
「流血を対価として獲得した自由だと?」もちろん、選民ならだれでもこのことには完璧に納得していなければならないのだが。
しかし、剣と悲鳴の不協和音が彼のまどろみを震撼させたとき、彼の同胞もまた同じ夢に悩まされていた--閉じ込められ、檻から発せられる甲高い悲鳴は野営地中に響き渡り、彼の両耳を包み込んでいた。
ドーンの夢
ドーン(Dawn)は眠りから飛び起きた。激しく高鳴る心臓とはうらはらに、室内は静寂に包まれていた。はっきりとした鉄の味、己の血の味が口の中に広がっている。思わず乱闘で殴られた時のように口の中を舌でさぐる。だが強く握りしめた拳とくいしばった歯からは、力を抜いて良いようだ。
ブリタニアの民が彼ら自身の内に囚われ、声もなく叫び、目から涙が流れるという幻影が、まるでハロワー(Harrower)のように彼女に忍び寄ってきた。ドーン自身もまた叫んでいた。鏡に映し出された自分の姿を見るまでは。顔に口がない。そしてその光景は次第にぼやけていき、黒々とした爪が彼女の肩を抱こうとしていた……。まさに爪が届く寸前で、ドーンは手さぐりでブロードソードに手を伸ばす。
シーツの上で、探し求めていた剣の柄から手を放した頃には呼吸も少し落ち着いてきた。不思議なことに見えなくもないが、寝返りを打ったときに武器を実際に握りしめていたのだ。だが明らかにこれは訓練と反射的行動の結果にすぎない。
冷たい金属は動揺する彼女の心に安寧と静穏をもたらした。刃の平面部分に指をすべらせるにつれ、ドーンの唇にはかすかな笑みが浮かんだ。
ドーンは驚くほどにしっかりとした声を発し、夢の魔術を破った。「あら……、私ったらもう戦ってたのね」
前兆
ザー(Zhah)はしっかりと両足を地につけていた。王国の防御シールドとザーの間には魔法が流れ、大きく一杯に広げられた腕はその流れを包み込んでいた。ボイドの混沌と霧はザーの力の及ぶ限界付近でもてあそぶかのようにちょっかいをだしてくる。裂け目ができていないか探していると、タロンが熱くなってきた。
宮殿から南の聖地までの、あらゆる存在をザーは感じ取っていた。彼女の心はもっと遠くまで届いていたが、アビスの暗闇は回避している。そのあたりは最近の脅威から逃れてきたスラッシャー(Slasher)がザーの織成呪文の一角に食い込んでいるからだ。
ザーはうっとりと微笑み、物思いに耽る。「ごきげんよう。ボイドのお仲間さん」どんなものにも居場所があるのだ……。悪にさえも。
その瞬間、ザーの両眼はカッと見開かれ、全身の筋肉を苦痛と焼けるような痛みが襲った。翼には痙攣が走り、ザーが滅多に感じることがないものが弾けるのを感じた。それは、恐怖。
飛び退ったザーは、ひと羽ばたきで女王の居室を横切り、机に向かった。
そして猛烈な勢いで信書を書き始める。それは国境警備に宛てたものであり、半ば殴り書きといっていいほどだった。古の悪が動きはじめている。アビスにいるスラッシャーでさえもそれを感じ取り、もてあそぶおもちゃどころではないことに気付くだろう。
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