BNN – ミナックスの企み

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BNN – ミナックスの企み           投稿日:2013年10月31日

女は膨大な魔力をクリスタルに注ぎ込んだ。クリスタルはパチパチと音を発し、その力は女の周囲の地面を揺り動かしはじめた……が、すぐにそれは止み、結局何も起こらなかった。そんなことは女も想定済みだった……単にこのクリスタルがあるだけでは駄目なのだ。何かで焦点を生み出さなければ。そのためには、もっと強力な何かが必要……と、そこまで考えた時、ふいに最高の場所に思い至った。好都合なことに、あの場所なら滅多に人が来ることもない。 邪悪な笑みを浮かべながら、女はシャンティ(Shanty)に手招きした。「ついておいで、シャンティ。もし邪魔者がいたら、お前のやり方で解らせておやり」

ややがっしりした体格の男は、喉の奥からクックッと腹黒い笑い声をたてながら、魔法のかかったきらめく大きなカットラスを引き抜いた。「お任せを、ご主人様。ご命令とあらば喜んで。このシャークバイトで楽しめるならなおさらのこと」と、肩に添えた刃を軽く叩き、愛おしげに男は言った。女が手を一振りして力の言葉を唱えると赤いムーンゲートが開き、二人はそれをくぐって目的地に向かった。

「悪ィことしたな、バードさんよ。今日は展望客にゃ厄日なんだ」シャークバイトをオイルクロスで拭い、バードの返り血を浴びたままのシャンティはそう呟くと、クリスタルを慎重にセットしている女のところへ戻っていった。「そいつは一体何なので?いや、オレが知る必要はねぇんでしょうが、手伝いが要るなら……」女が立ち上がったので、シャンティはそこで言葉を止めた。

「いい心がけね、シャンティ。でも、お前に魔法は期待できないわ……」

「確かにその通りで。ご主人様」男はカットラスを鞘に戻さず刃を点検したが、そんな必要があるはずもなかった。ギザギザの刃は魔法によって永遠の鋭さが保たれている。「では、オレがお役に立てる方面はお任せを」男は重々しい足取りで階段に向かい、少し汚れたオレンジを取り出して血塗れの指で無造作に皮を剥くと、一口かじった。「御用があればお呼びください、ご主人様」

シャンティの滑稽な仕草にニヤリと笑い、女は向き直って自分が置いた物を満足げに眺めた。例の宝石は、最も強力な焦点生成空間となりえる場所に置かれている……そういった焦点生成や反射の目的でこの場所は使われてこなかったことだろうが。強力な呪文に包まれ、宝石は女が配置した何枚かの鏡に囲われた中央に鎮座していた。「さぁ、始めましょう……」と静かに言うと、女は力の言葉を唱え始めた。それはニスタル(Nystal)の姿が消えて以来、誰も耳にすることのなかった呪文だった。魔法の力に部屋は振動を始め、巨大な力が建物を揺らし、まるで建物全体がバラバラに引き裂かれるかのような凄まじい破壊音が鳴り響いた。

その音にシャンティが振り向くと、灯台の窓から凄まじい力の光が燃え上がっているのが見えた。魔法エネルギーの音以外に聞こえるのは女の詠唱だけであり、やがてそれは成功の喜びにあふれる高笑いに変わっていった。エネルギーの嵐の咆哮は、一瞬彼女の声をも圧倒するほど激しさを増したが、突如として静寂が全てを包み、光は消えた。

女は用心深い足取りで出て来ると、手にしていたクリスタルをポーチにしまった。「これでよし……面白くなったわ。他にもイタズラしてしまおうかしら、ねぇシャンティ?」

「はい、ご主人様。報酬も申し分ねぇですし、しかも久しぶりに心底楽しめました。どうぞご指示を」

女は笑みを浮かべて再び力の言葉を唱え、新たなムーンゲートを開いた。「ところでシャンティ、私のことは名前でお呼び。そろそろ身を潜めるのも飽きたから」

「へい、ご主人さ……、じゃねぇ、ミナックス様(Lady Minax)」

そして二人はゲートの中に消えた。位置を変えられた鏡と波間に漂う死体だけが、大灯台を二人が訪れた証としてその場に残されていた。

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