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BNN – ヤバい仕事 2013年10月17日
酒場は多くの客で賑わい、すぐには彼女は見つからなかった。ようやく彼女の姿を認め、男は微笑みを浮かべながら彼女のテーブルに向かい、同席した。「やぁ、待たせたね。こっちはほぼ収穫ナシ……話をしてくれる人がほとんどいないんだ。どうやらパプアを出た船は無し、僕らがあの難破船を見つけた頃は誰もサーペントピラーを使えなかった、ということらしい。それから、こんな不可思議な難破船は、これが初めてじゃないとも聞いた。今まで船が現れなかった所にさえ船団がいるっていうんだ。しかし誰が乗っているのかまでは判らない……僕が助けたあの人もまだ意識を取り戻していないし」片手で髪をかきあげ、イザヤ(Isaiah)は腹立たしげに息を吐いた。「で、君の方は何か判った?」
イザベル(Isabelle)は婚約者に笑いかけ、エールのマグから一口飲んだ。「そうね、無愛想な船員さんより、愛想のある美人の勝ちってとこかしら」と、いたずらっぽく言いながら彼女はウィンクしてみせた。「難破船を引き上げた船の乗組員が全部話してくれたわ。ああいう難破船は大抵積み荷を満載しているんですって……明らかに盗品のね。あれは海賊船なんじゃないかって彼らは考えているそうよ。だけど、どこから盗まれた物なのか全く判らないっていうのが気になるわね。出航した船の積載貨物目録には無い品々なんですって」イザヤの表情から彼が他の何かに意識を集中させていることに気づき、イザベルは眉をひそめた。「ねぇちょっと、聞いてるの?せっかく重要な情報だと思って話しているのに…」確かにイザヤは最初のうちはイザベルの話に夢中になっていたが、途中であるものが彼の注意をひいたのだ。イザベルに意味ありげな視線を送り、イザヤは声を落として言った。「そのまま話し続けて……なんでもいいから」イザベルはいぶかしげな表情をみせたものの、話を続けた。そしてイザヤは全神経を研ぎ澄まして隣のテーブルから聞こえてくる会話に耳を傾けるのだった……。
「へっ、オメーには期待してたんだがな……。まぁいい、サイオン(scion)に手を出してから、オメーもビビるようになっちまったってこったな。だろ?」と、男は薄汚れた歯を見せながらニヤリと笑い、目の前の身なりのいい男を見やった。
「ビビるだと?てめぇ、俺を誰だと思ってる。俺にそんなクチをきいていいと思ってんのか?てめぇがやったことは、屠殺場に子羊を送りこんだようなもんだぞ、この大馬鹿野郎。他のヤツらには、こんな仕事は無理だ」
「ほぉ、じゃあオメーならやれるってのかよ?どうなんだ?」
やや苛立った様子で男はダブレットの乱れを直し、口を結んで少し考え込んだ。「できるさ……だが、条件次第だ。報酬は何だ?」
薄汚れた歯の男は再びニヤリと笑い、テーブルの向こうから小さな袋を滑らせて寄こした。受け取った側はその袋を開き、ヒューッと短い口笛を吹いた。袋の中には、男がこれまで見たこともないような大粒の宝石が幾つか入っており、一緒に入っているメモには残りの報酬についての説明と、盗むべき品の詳細が書かれていた。男はフッと小さく笑うと、テーブルの向かいに目を戻した。
「オイオイ、俺はまだオーケーしてねぇよ。なのにこんな大層なモンをご丁寧に計画指示書付きで俺みたいなヤツに渡しちまうなんざ、ちっとばかりウカツなんじゃねぇのか?」
「フン…、あの女は見抜いてる。オメーは引受けるさ。違うか?」
顎に手をやり、長いこと考え抜いた末、男は答えた。「その女とやらに言っとけ。万事上手く行く。そして、ここにあるものは俺が全部いただく。それと……もし面倒事が起きるようなら、追加ボーナスをはずんでもらうぜ」
身なりの良い方の男が席を立った時、イザヤはイザベルとの会話に夢中で彼らの会話など耳に入っていなかったフリをした。というより、実際彼は途中からは興味を失っていた……なぜなら、イザヤの目下の関心事とは全く関係がなさそうな話であったから。婚約者に意識を戻し、彼はイザベルに微笑みかけた。「さて、もうここに居ても収穫はなさそうだ……スカラブレイか、あるいはトリンシックでなら何か判るかもしれない」最後にエールを飲みほし、彼は席を立った。「ベスパーは僕には風通しが良すぎるよ」
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