BNN – 徳の影 – 夜明けのかすかな光が更新されました。
まずはざっくりと日時だけ。
SSは公式のものを借用しています。
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近く、ドーン女王陛下(Queen Dawn)がバーチューベイン(Virtuebane)と戦うための武器を手に入れるための遠征に向かわれることになった。ついては、女王陛下と共に遠征に向かうものを募集する。
召集予定時間
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※開始時間が若干遅れる可能性があります。ご了承ください。
※トライアルアカウントのプレイヤーは、イベントの一部を体験することができません。
場所: トランメル ブリタニア城内 玉座の間
※YamatoとSakuraの実施予定は、下記サイトをご覧ください。
Yamato: http://yamato.uoem.net/
Sakura: http://sakura.uoem.net/
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BNN – 徳の影 – 夜明けのかすかな光 投稿日 2011年2月10日
片手に剣を握り、ドーン(Dawn)はバルコニーに面した小さな窓から外の様子をうかがった。空いている方の手で外套のボタンを留める。夜も遅かったが、正確な時刻はわからない。なんとか眠りにつこうとベッドでずっと横になっていると、バルコニーに通じるドアを何かがそっと叩く音がドーンの耳に入ってきた。今夜の月は二つとも新月なので、外はいつもよりずっと暗い。まどろみかけていた意識をハッキリさせようと、ドーンは目を数回まばたかせた。石造りのバルコニーの手すりの上で、一人のガーゴイルが中庭の方を向いてかがみこんでいる。フードのついた長いローブをまとっており、体の特徴はわからなかった。
相手に剣を向けたまま、ドーンはかんぬきを外してバルコニーのドアを開いた。振り向きながらフードを脱いだガーゴイルの口から、聞き覚えのある静かな声が発せられた。「よかった。ヒューマンは大量の睡眠が必要だから起きていないのではないかと思っていたわ」
ドーンは剣を下ろして安堵のため息をもらした。「ザー女王(Queen Zhah)、あなただったの。お供もいないし、あなただとは思わなくて」
ザーは眉をあげ、「間違いなく私よ」と言った。そして再びフードをかぶり、翼ごしに背後の中庭に目をやった。「入ってもいいかしら?」ドーンはうなずき、ザーが翼をたたんで身をかがめながら部屋に入っていく間、外に警戒の目を走らせた。
ドアを閉めたドーンは、さきほどの小窓からもう一度外の様子をうかがった。「誰もあなたに気づいてないわ……。うちのガードたちもね。まったく、なんてことかしら」
「仕方ないわ、私は魔法でガードの目をあざむいて来たから」その顔には自己満足の表情が浮かんでいる。
「そう言われても、嬉しくなれないわよ」とドーンはこぼした。ドーンはロウソクに火をともし、誰かが廊下で立ち聞きしていないか確認した。
ガーゴイルはドーンの部屋の片隅に立った。天井が低いので翼が圧迫されてしまい、居心地が悪そうだ。彼女は突然真剣な口調で語り始めた。「私はあのバーチューベイン (Virtuebane) というデーモンについてずっと調査を続けてきたの。そして弱点を見つけたわ」
「それは嬉しい知らせね、弱点は何なの?」
「謙譲(Humility)よ」
「徳のものと同じ?」
「そうよ」
ドーンはがっかりしてため息をつき、ベッドに腰をおろすと剣を膝の上に置いた。「それはまた嬉しくない知らせね。それってちょっと……突飛じゃない? それに秘奥みたいじゃない? 対バーチューベイン大砲弾とかそういう物を期待したのに」
「秘奥、そうね。あなたがその言葉を知っていて嬉しいわ。ねぇドーン、私たちの相手はデーモンなのよ。その弱点が想像力豊かなものかつ目にみえないものであっても、何も不思議はないのよ」
ドーンは懐疑的になり苛立ちも感じたが、冷静さを保とうと努めた。「せっかく幾多の危険をかいくぐって話に来てくれたのだし、その仮説も聞いておこうかしら?」
ドーンの熱意のなさにも動じず、ザーはベンチを引き寄せて座った。ロウソクの明かりにぼんやりと照らしだされた目は興奮で見開かれ、指の長い爪は自論を明かす喜びでカチカチと音を立てており、その姿を見たドーンは少し不安な気持ちになった。「あなた方の徳の三原理である真実(Truth)、愛(Love)、勇気(Courage)を堕落させることでバーチューベインはあなた方に及ぼす力を得ている、これが私の仮説の基礎よ」
ドーンは一瞬顔をしかめた。彼女は心から不安を払おうとした。「密偵の報告によれば、ベインの選民は真実の本(the Book of Truth)の写本を堕落させた者をメンバーに迎えているわ」そしてある事に気付いて愕然とした。愚か者と言われそうで少しためらったが、話を続けた。「最近、二人の人物が、襲撃を受けている街に勇気の鐘(the Bell of Courage)の模造品を設置しないかと売り込んできたのよ。人々へ勇気を与えるためというのが彼らの口実だったわ。バーチューベインの狙いは陥落させた街の鐘を堕落させることにあったのね……」
「そのとおりよ。あなた方の徳を支える三原理を堕落させることでバーチューベインはあなた方の人々を堕落させているの。人々を堕落させることから超自然的な力を得ているようにさえ思えるわ。それに、あなたの夫オルス(Ors)をさらったのもバーチューベインだと思う。そうやってあなたを苦しめて愛を堕落させようとしているのよ」
「私もオルスは彼らに連れ去られたと疑っているけど、居場所が突き止められないのよ」疲れ切ったドーンは、自らの過ちを次々と思い起こされるこの状況に耐えられなくなってきていた。「ザー、わかるでしょう? 嬉しい気分になんてなれないの。私たち、一体いつになったらバーチューベインの弱点を突けるっていうの?」
「謙譲よ」
「そう、そうだったわね。ねぇ、詳しく話してくれない?」
「あなた方の大切な文献によれば、謙譲は唯一三原理から独立した徳だそうね。他の徳が弱まったので、恐らくその徳は力をのばしているわ」
「いやだわ、ザー……。そんな仮説、『一日ヘルパーさん用農場ハンドブック』の厚さ並みに薄っぺらいじゃないの」
「薄っぺらくなんかないわ。これが秘奥なのよ」
ドーンは首を振り「あなたの仮説が正しいとして、謙譲からどうやって武器を作りだすの?」
「精神的な何かが必要よ。あなた方が謙譲の象徴と信じられるような何かが。あなた方の原理の象徴に宿る精神を堕落させることでバーチューベインは力を得ている。だからそういった力に対抗できる、同じくらい強い精神が宿ったものが必要なの。何か質素な要素を持って誕生しながら広く知られているような、そんなアーティファクトでもないかしら?」
ドーンはザーを見つめ、何かいいたそうに口を開けた。答えはいつも私の手の中にあった、そんなことってあるのかしら? と彼女は思った。口を閉じて手にした剣に目をやり、ドーンは頭をふった。
「どうしたの?」
「なんでもないわ。そんなことあるわけないし。少し感傷的になっただけよ」
ザーはうなだれ、その指の長い手を頭にやった。それから姿勢を正し、ドーンの瞳を直視した。「我が友ドーン、確かに私とあなたは親友ではないけれど……、私たちは友人よ。滅びゆく我が世界に資源を供給してくれているあなた方に私は恩義を感じているの。あなたを助けるため、私は一番身近なアドバイザーにさえ何も告げずにここに来たのよ。あなたを傷つけた
りはしないわ。何か考えがあるなら、私に話して」
「一番身近なアドバイザーですら信用していないというの?」
ザーはため息をつき、「正体不明の敵を相手にする今、誰がバーチューベインに通じているか判ったものではないわ。誰にも行き先を言わずに来れば、どのアドバイザーなら信頼できるか悩まずにすむのよ」
「私の剣はね、元々は鋤(すき)という農具だったのよ」
「え?」
「この剣は、私の祖父からもらったの。オークに農場を壊されて、それで鋤からこの剣を作ったのよ。作物を荒らすオークどもを追い払うまで鋤なんぞ必要ない、なんて言ってね。祖父はこの剣をみるたびに自分の決意を思い出していたし、私もそうなのよ」
ザーはその剣を見やった。「そんな不運から誕生した剣ならば、ぴったりだと思うわ」
「ただ、剣の柄部分は父が少し装飾を良くしてしまったのよね。 それに最近私が練成させてしまったし」
ザーはしばらくこの点について考え込んだ。「それでもバーチューベインを倒すのに悪くないと思うわ」
「無理よ。街を守るために一度奴とこの剣でやりあったんだけど、大きな違いはなかったわ。結局退却せざるを得なかった」
「質素な武器と謙譲を宿らせた武器では違うのよ。普通の鐘と複製品の勇気の鐘くらいの違いがあるわ」
「では、どうやってこの剣に謙譲の徳を宿らせるの?」
「謙譲の神殿で祝福を受けるだけでいいと思うわ」
「それだけ!? たったそれだけなの?」
「やってみる価値はあるわ」
「そうね。では大々的に公布の上で行うことにするわ。目的は二つ。もしこれが本当に奴の弱点なら、このことを知ったバーチューベインが何か反応するはずだわ。どのみち判ることだけど。そして、この過程を通じて人々に希望を与えることができると思うの」
ザーは顔をしかめた。「それは危険すぎないかしら。もし私の仮説が正しかったなら、バーチューベインは全力であなたを阻止しに来るはずよ。あなたに同行するリスクを取るわけにはいかないけれど、信頼できるガーゴイルたちを推薦してもいいわ」
「ええ、危険よ。私たちが二人とも行くのは賢明ではないと私も思うわ。公布には詳しく明かさず、単にバーチューベインと戦うための武器を手に入れるための遠征とだけ言うことにするわ」
ザーは立ちあがり、再びフードをすっぽりと被った。「じゃぁ、もう行くわ。あなたも寝ないと。何か判ったらまた来るわ」彼女はバルコニーのドアまでそっと歩き、ドアを開いた。ドーンもザーに続いて外に出た。
ガーゴイルの女王が手すりに乗ったとき、ドーンは、彼女に今何かを言わなければいけないという思いで一杯になった。「ザー」とドーンは口を開いた。ザーは振りかえった。だが、ドーンが頭の中からかき集めてなんとか口にできたのは、「……ありがとう」のたった一言だった。うなずいて理解の意を示したザーはバルコニーから飛び立ち、夜の闇に消え去っていった。
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