BNN – 覚醒 – 第三章が更新されました。
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BNN – 覚醒 – 第三章 投稿日:2012年4月11日
彼らの過ぎた後には、ほとんど何も残らなかった。男は城における狂乱の略奪を目の当たりにし、命からがら逃げることしかできなかった。あれは予想もつかない出来事だった。だからこそ男は巻き込まれてしまったし、他の誰もが予見できなかったのだ。爆発は首都のあらゆる場所で起こった……今となってはもはや首都と呼ぶにふさわしくはないが。各都市がまるでニュジェルムのように完全に独立した都市国家として分離崩壊に向かって行く。ブリタニアはその瀬戸際にあった。男が回収できたのは、背負っている衣服と手の中にあるしわくちゃの布切れだけだった。自らの選択にまだ戸惑いを覚えながら、彼は頭の中でこの事件を振り返った……。
戦闘の音がだんだん迫ってきていた。男はセラーにあった1ダースかそれ以上のボトルをなんとかかきあつめ、ぼろぼろのクロークで包むと、しっかりと縛って即席の袋がわりにした。怒号は次第に大きくなり、開いた窓から風に乗ってむかつくような不快な潮の臭いと煙が混じりあいながら漂ってきた。刃が鎧に当たる音が聞こえる。そして音が右に移動していったかと思うと、金属が鎧に、肉に、そして骨に当たる音と共に絶叫が響き渡った。残された時間が刻々と減っていく中、正面の門に向かった男は、途中で地面に落ちているある物を偶然見つけた。男が視線を上げると、彼の主の家を守る鉄の落とし格子門を突破しようとしている群衆が見え、火薬の臭いが鼻腔を突いた。男の目は恐怖で見開かれた。しかし、門が襲撃され、よじ登って来る音が聞こえた時でさえ、男は取り落としてしまったボトルを拾い集めようと右往左往していた。男の注意は再びあの古くてぼろぼろの、角の鈴が一つ取れた帽子に向けられ、彼のぼんやりとした思考は一瞬ハッキリとし、数年前にある年老いたジプシーが男に語った言葉が頭によみがえった。
最も暗き闇夜にあるとき、我らはポーンに過ぎぬと思えることがある
我らの真の自我と重要性は、夜明けをもたらすために明らかにされる
男がボトルと共に布切れを拾い上げた時、群衆の一部が城を守る大きな門をよじ登ってきた。あっという間に彼らは目に入ったものを手当たり次第に奪い始めた。男は、ありとあらゆる物を漁りまくる群衆の波に逆らい門に向かおうとしたが、なかなか到達できなかった。門は荒々しく解き放たれ、男はなんとか人々の間を掻き分けて橋の上にたどり着いたが、押し寄せる群衆の一人に突き飛ばされ、手すりの上につんのめった。両腕を風車のようにぐるぐると回して踏みとどまろうとした努力もむなしく、男はバランスを崩して手すりの外へ投げ出されて水中に転落してしまった。しかし、彼の指はかつて誇らしげに身に着けていたあの帽子をしっかりと握りしめていた。陸に戻ろうとした瞬間、男は突然激しい波に飲まれ、がれきが周囲の水中に次々に飛び込んできた。ようやく水面に顔を出し、男は長年「家」と呼んできたあの城の残骸を目の当たりにした。それはいまや壊れたモルタルと粉々のレンガ、そして燃える草木でしかなかった。橋はもはや本来の目的を果たせない姿になり果てており、湾の柔らかな流れが岸にひたひたと打ち寄せる動きに合わせ、死者や木材が浮かび流されていった。やがて男が岸に這い上がったとき、男の手はあの帽子をまだしっかりと掴んでいた。それが城から彼が持ち出すことができたたった一つの品だった。周囲で悲劇と恐怖が展開されているというのに、なぜかこの帽子だけは正しい存在に思えた。
時が過ぎても、ジプシーの言葉がなぜ彼にとって重要であるのかは解らなかった。自分自身と同じように、忘れ去られ、朽ち果てるがままの存在にしてきたのだ。ジプシーの言葉はまだ男の頭の中で何度も響いている。これは本当に何か意味ある言葉なのだろうか? それとも運命はさらに別のポーンでチェスをプレイしていたという長くて滑稽な話集の最新作なのだろうか? そしてもしジプシーの言葉が真実であるのなら、その言葉に続けてジプシーが男に与えた警告は筋が通ったものなのかもしれない。
欲望が生まれ、何もかも奪われる
その時、封印されしものが覚醒を始める
無意識に身体が震えた。それがずぶ濡れになった寒さから来ているのではないことは、男には解っていた。
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