BNN – 徳の影 – 戦いの前兆が更新されました。
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BNN – 徳の影 – 戦いの前兆 投稿日:2010年12月18日
ドーン(Dawn)は私室の外の小さなベンチに座り、ブーツを調整していた。彼の発言の意味するところを察しようと、顔を上げることなく動きを止めた。彼女は思い出し、そして疲れきった声で答えた。「ランキン(Rankin)、すぐに行くわ。夫のニュースかしら?」
「違います、陛下。申し訳ございません。その件に関しましては、いまだ行方がつかめていない状況でして……」
ドーンは立ち上がり、ランキンの目をじっと見つめた。老人。頭頂部の灰色の髪は薄くなっていたが、残りを伸ばし続けることによってバランスを取ろうとしているように思えた。身長はドーンと同じくらいであったが、彼は明らかに太っており、頬と目の周りの皮膚は猟犬のようにたるんでいた。彼の風貌は、長いローブを着て大きな城を歩くのに似合っていると思った。「案内してちょうだい」
私も、心配事のせいで歳より老けたわね、とドーンはぞっとした。彼女はよく眠れていなかった。過去の指導者も全て実際より老けて見えたのかしら、と思った。オルス(Ors)はどこにいるの? まだ生きているの? 最近、色々な方向から多くの影が忍び寄っている。彼女の本能は、夫はベインの選民(the Bane Chosen)によって誘拐されたと告げていた。だが、身代金要求もなく、質問をしても、この件については何も知らないように思えた。
ドーンはポジティブな考えをするようにしようと努力した。少なくとも、軍人の訓練プログラムの改善を行ったのだ。彼らはより良く、より鋭くなっているという実感があった。このことで若干気持ちが楽になり、この気分の違いは、軍人の生活にも影響を与えた。発注していた新しい船の完成も近づいていた。これは、マジンシア(Magincia)で必ず起こるであろう包囲戦に於いて、ブリタニア海軍の優位性を確実なものとするための重要な鍵となるだろう。
この戦いの終わりはベインの選民の指導者を打ち破ることになるであろうが、彼らはその正体をいまだに明かしていなかった。ベインの選民の兵士を攻撃することは非常に簡単ではあるが、問題の枝葉末節を切っているだけに思えた。そうね、まだ根っこは見つけられてないかもしれない。でも、徳の名において、私が彼らの木をたたき切ってやるわ、とドーンは思った。
ドーンはランキンの後をついていき、いくつかの広間を通りすぎて目的の部屋に辿り着いた。その部屋の中心には絹布がかけられた大きな物体があった。その後ろには、ドーンがやり過ぎだと感じる微笑みを湛えた、二人の媚びへつらった紳士が立っていた。一人は背が高く痩せており、もう一人は背が低く太っていた。しかし、二人とも非常にそっくりな、高価な衣服に身を包んでいた。
背が高く痩せた方が言った。「おはようございます。女王陛下! 本日も、いつものようにお美しいですな。お目にかかれてとても光栄に存じます」
ドーンはランキンを見た。「これを買うことはもう許可したと思うけど」
「ええ。そうしました。陛下」ランキンは二人の紳士を睨みつけ、続けるように身振りで合図した。
「じゃぁ、見ましょう」そっけなくドーンは言った。
背の高い紳士は彼女にお辞儀をした。「陛下のお望み通りに。こちらのパートナーと私は、他のお仕事のお邪魔になるほど時間を頂くことを望んでおりませんので。布を取りたまえ、モーティマー(Mortimer)」
背の低い太った紳士が深くお辞儀をした後、物体へ歩み寄って絹布を引き、取り去った。
台座の上に置かれた大きな鐘が姿を現した。
モーティマーはもう一度お辞儀をした。「勇気の鐘(the Bell of Courage)の精巧な模造品、レプリカでございます。陛下」
ドーンはランキンを見ていなかったが、彼が自分のことを期待を込めて見ていることをわかっていた。彼は明らかに興奮していた。このプロジェクトを彼女に認めさせたのは彼だった。そして彼女は、この紳士たちがまず彼を説き伏せたのだと思った。いい考えだ。ランキンはスローガンのように何回も繰り返していた。「勇気の鐘を設置し、人々へ勇気を与えましょう」と。
ドーンは感動したことを認めざるを得なかった。彼女はドラゴンたちの闘いからの一連の闘い以降勇気の鐘を所持していなかったが、これは本物と同じような感じがしたのだ。細かいところまで気がつくのが自慢の彼女だったが、目の前のレプリカをじっと見ても、違いを挙げることができなかった。継ぎを当てられたひびのかすかな線すらも彼らは再現したのだ。この感じを覚えているわ。ここに着いたときに感じた、私はもう参ってるんだっていう感じ。ドーンは線を凝視したときそう思った。
「許可をいただければ、私どもの作業員はブリタニアの主要都市にこれを設置する準備を始めます」痩せた男がお辞儀をして言った。
「マジンシアに置いたらどうかしら?」ドーンが容赦なく皮肉を言った。
「ほほう。実は陛下、私どもの設置予定地リストにはマジンシアはございませんのですよ。モーティマー、聞いてましたか? マジンシアだよ、モーティマー。これは陛下がおふざけあそばれたのではないかな?」彼は鼻を鳴らして恩着せがましく笑った。
「いやぁ、陛下は面白いお方だ!」モーティマーはそう言ってお辞儀をした。
ドーンは一度も自分がそれほど……ユーモアがないと感じたことはなかった。
ドーンはランキンを見、二人の紳士へ視線を戻した。「よくやりました。もしも、更なる侵攻が起こった場合、これらの鐘は召集に使いましょう。もちろん、もうひとつの偉大な目的にも使いましょう。これはブリタニアの市民に神聖なる徳を思い起こさせることができるでしょう。この困難な世の中においても、人々は貴方達の仕事の成果を目にすることで、勇気を引き出すことができるでしょう」
「バーチューベイン(Virtuebane)は、真実(Truth)とは何か、その真相の理解をねじ曲げ、人々を堕落させました。彼は、真実を無力なものにしたかもしれません。しかし、残された勇気(Crourage)と愛(Love)、両方の力で、私たちは彼を打ち破るでしょう」
“愛”について話したとき、ドーンの感情はオルスへの想いでいっぱいになった。大声で泣き出したい気分になったが、この場ではそのようなことはできなかった。ドーンはランキンと紳士たちに頷いた。「これでよければ、私は別件があるので」
彼女は早急に部屋を立ち去った。
夜空の下、黒い祭壇は力に溢れ、地面が震えていた。ベインの選民の魔術師たちが祭壇の周りで手を繋いで輪になり詠唱を行っていた。彼らの体が暗黒の力で満たされていく。彼らひとりひとりの背後には大きな剣を手にした巨大なデーモンが立ち、魔術師と同様に詠唱を行っていた。詠唱は続き、場の空気が魔術師の体が激しく震え出すまでに高まった。突然、夜空から大きな稲光の矢が落ち、祭壇を撃ちぬいた。これを合図に、デーモンの剣が前方へ振られた。魔術師の頭が躰と離れ、悶えているようにも見える躰の、かつて首と呼ばれた部分から暗黒のエネルギーが解放される。放出されたエネルギーは彼らの躰を離れ、円を描きながら集まり、祭壇の上で黒いゲートとなった。
世界が二つに分かれてしまうかのような、強烈な雷鳴が轟き、エンシェントヘルハウンド(ancient hellhound)がゲートを通って跳びだし、祭壇の近くに新たにできた死体のひとつの上へ着地した。祭壇が取り囲まれるまで、次々に古(いにしえ)の獣がやってきた。彼らの周囲が新鮮な肉の匂いに満たされているのにもにも関わらず、ヘルハウンドは警戒し、各々の場所を動かずに主人を待った。
二つの巨大な角がゲートに穴を穿ち、巨大な双蹄が祭壇の上に踏み出してきた。雷鳴が轟き、空が悲しみで涙を流すかのように雨が降り始めた。こうして、バーチューベイン猊下(his eminence Virtuebane)はソーサリアの世界へご降臨あそばされたのである。
雨の中、彼は祭壇の上に立ち、暗闇を見た。彼の下僕のエンシェントヘルハウンド。血まみれの剣を持つデーモンの輪。そして彼は、デーモンの後ろに立つ軍勢を注意深く見た。最も忠実な信奉者たちである。彼らの魂を調べ、にやりとした。
成功の喜びにがっしりとした腕を上げ、吠えた。「見よ! バーチューベインの時代がもう手の届くところまで来たのだ! 進め! そして運命を手中に収めよ!」
戦士たちから猛烈な喝采が上がった。そして、彼らは雨に刃向かうかのように松明を掲げた。
バーチューベインは雨でずぶ濡れになった拳を固く握り締め、顔まで下ろした。「二面性のクリスタル(the Crystal of Duplicity)を我の元へ持ち来る戦士には、新たなるソーサリアにおいて我の右腕としての地位を与えようぞ!」
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