BNN – 覚醒 – 第七章 第二節

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BNN – 覚醒 – 第七章 第二節     投稿日:2012年8月21日

「サー(Sir)?」

「あ……、すまない。少し考えごとをしていたんだ。君がロイヤルシティ(Royal City)のテルヴァル(Ter-Val)かい?」

「そうです、テルヴァルはこれの名前。これ、あなたの道案内になって、病のキャンプに連れていく。でも、遠くは無理。あなた武装していてよかった……。あの区域は危険が無い所と違う。あなたを中まで連れていけないから、これはとても悲しい。でもザー女王(Queen Zhah)の厳しい命令受けている」

デュプレ(Dupre)は短くうなずいて、出発を促す仕草をした。「それじゃ行こう。さっさとあのヒーラーに会ってオレの疑念をスッキリさせたいからな」

この二人の戦士に、それ以上の会話は必要なかった。例のキャンプに続く道を目指して二人が旅する間、聞こえるのは鎧、足、翼の音だけだった。テルヴァルは静止し、ロイヤルシティに戻る準備をしながら言った。

「この道行けば、あのキャンプある。ときどきスリィス(slith)と狼(wolf)出てくる、すぐ剣使える準備しておくのが賢い。あなたをこれ以上案内できない、これはもう一度お詫びする」

デュプレはお詫びを断るように手を振り、ガーゴイルに微笑んでみせた。「命令に従うのは兵士の務めだ。オレの部下も命令に従うが、あいつらにも君にも、こういう時に心苦しく感じて欲しくない。気にせず行ってくれ」

帰路につくガーゴイルの羽ばたきの音はだんだん小さくなっていったが、その音をかき消すように、デュプレにとってより馴染みのある物音が聞こえ、彼は剣を抜いて構えた。あのキャンプまでは長くかかりそうもなかった。たとえこの先に何が待ち受けていようとも。

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「デュプレ卿! デュプレ卿!」

騎士は振りかえり、声のした辺りを見つめ、誰の声だったか思い出して視線を下に向けた。ここまでの道のりで倒したレザーウルフ(leather wolf)の脂で滑りやすくなった剣を納めてひざまずき、手を差し伸べてシェリー(Sherry)が登りやすいようにしてやった。

「シェリーにとって、オレはただのデュプレでいいって言ったはずだけどな」と、彼は口ひげのある顔に微笑みを浮かべた。彼の手の中のちっちゃなねずみは、頬ひげを震わせてクスクスと笑った。

「ここで会えるなんて思ってもみなかったわ! ヴァーローレグ(Ver Lor Reg)での戦いの後、フェルッカに戻ったんじゃなかったの?」デュプレは立ち上がり、少し困ったような顔つきで答えた。

「やらなきゃならないことが色々あってね……。それであちこち行く羽目になったんだ。ところで、オレに会いに来たんじゃないということは、シェリーも例のヒーラーに会いに来たのかい?」ちょうどその時、キャンプが見え始めてきた。薄気味悪くそびえたつ厳重な柵が見える。

「そうなの! あの人の話を聞きにきたんだけど、腹を立てたガーゴイルに追い出されちゃったの。わたしが病気を運んでるって言うのよ!」キャンプに入りながら、ぷりぷりと怒ったシェリーが言った。

「大丈夫、君の名誉はオレが守ってみせるよ、シェリー。ところで、オレの考えが正しいなら、目の前にいるのが例の人物だと思うよ」

彼らの会話やデュプレの鎧の音がしているというのに、目前のローブをまとった人物は、全く振り返りもせず、二人を見ようともしなかった。この男は作業に没頭しており、二本の試験管の治療薬を混ぜ合わせていた。デュプレは沈黙し、目の前に並べられた試験管やビーカー、フラスコを男の手が巧みに操る様子を静かに見守った。薬品の取扱いに慎重さが必要なことは明らかであり、重要な段階を邪魔してしまわないよう、男が作業を終えるまでデュプレはじっと待った。ゆっくりと男は振りかえったが、フードで顔はまだ見えなかった。男は口を開いた。

「治療薬をお持ちいただいたのでしたら、喜んでいただきます」

ヒーラーの声を聞くなり、デュプレは反応した。低く身構え、脂にまみれた金属が革をこする音が響き、地面に飛び降りたシェリーの甲高い鳴き声がその音に続いた。

「この卑劣漢め、どんな邪悪な魔法で蘇り、ここで何を企んでいるのか判らんが、貴様を墓穴に送り返してやる」

ヒーラーは素早く手を下におろすと、腰の両側に下げた秘薬袋を見せた。デュプレに緊張が走ったが、ヒーラーは秘薬袋を二つとも地面に落とし、手に何も持っていないことを見せたまま、ゆっくりとデュプレの方を向いた。

「サー・デュプレには何度もひどい言われようをしたものだが、まさか卑劣漢とまで思われているとはね」デュプレは攻撃に備えた構えを崩さなかった。警戒する騎士を刺激しないよう、ゆっくりと手を持ち上げて男がフードを外すと、デュプレがよく知る顔が現れた。だが、デュプレが最後にこの顔を見た時、顔の一部はエクソダス(Exodus)の奇怪な機械となり、眼は憎悪と憤怒に燃えていたはずだ。ヒーラーは、前に立つデュプレを見た。男の眼には、ブラックソン(Blackthorn)の墓に眠る存在と対峙した時にデュプレが感じたあの軽蔑が全く感じられなかった。その代わりに、興味や好奇心がその瞳に浮かんでおり、デュプレが間違っているのでなければ……、少し感じのいい眼差しにすぎなかった。とはいえ、デュプレはまだ彼に対する警戒心を解かなかった。小さな甲高い声が緊張に満ちた空気を破るまで、この二人は長い間こう着状態に陥っていた。

「デュプレ! まず話を聞いてみましょうよ! 彼はあなたが思っているような人じゃないわ!」後ろ足で立ち上がりながらシェリーは言った。彼女の手は、まるでヒューマンが力説するときのように握りしめられていた。デュプレは唇を捻じ曲げ、しかめっ面を浮かべてふさふさとした口ひげを少し動かしたが……、ゆっくりと構えを解き、剣をおろすと切っ先をプレートレッグに包んだ足のそばの草地に立てた。両手で剣の柄を握り、デュプレはまっすぐに背を伸ばすと男を見つめ、一瞬も眼を離さなかった。

「こいつの正体はオレが思っている通りさ……。でもオレが思っていた通りの人物ではないのかもしれない。話してくれ、ロード・ブラックソン(Lord Blackthorn)。一体何があったんだ?」険悪な空気が収まったので、ロード・ブラックソンはゆっくりと手をおろし、彼の眼に少し面白がるような光が差したのを見て、デュプレのしかめっ面はさらに険しくなった。

「サー・デュプレ、それはとても長くて、信じてもらえそうにない話になるだろうな。とはいえ、君たち二人に話すことに異論はない……。だが、サー・デュプレ、あなたには一つ頼みがある」

「頼みだと?」デュプレは彼を見据えたまま言った。

ニヤリと笑ってロード・ブラックソンは言った。「議論は酒と共に、というのがあなたのこだわりだと承知しているが、私はチェスをしながらの方が好みでね。そこを譲歩してくれるというなら、偶然にも私はチェス盤を持っているのだが……」彼は、シェリーとデュプレ卿について来るようにと促す仕草を送り、一行はこの野営地に点在する小さな建物の一つに歩いていった。

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